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てにすまん 高西ともブログ

スペインでコーチに怒られたこと [過去の思い出]

投稿日時:2013/01/14(月) 09:07

海外に行くと、上下関係なんてものは無くなる。
選手とコーチは友人として付き合うし、お互い冗談言ったり
からかったりするのが、最初はどうも気になって馴染めなかった。
だってアメリカでレッスン受けているジュニアを見たときなんか、
子供は一切ボールを拾わない。
コーチがせっせとボールを拾うんだけど、その間子供達は
ドリンクしながら休憩をする。
「だって、ボール拾うためにレッスン受けているのでは無いから」
というのが彼らの言い分だが、それはコーチもそう思っているから
問題なく成り立ってしまうのだ。
 
スペインのアカデミーにいた頃も、ついついコーチに対して
目上の存在として接してしまっていた。
他の選手なんか、平気でコーチに楯突いたりしていたが
俺なんてそんな事しようなんて微塵にも思わなかった。
もちろんコーチの言っていることに疑問を持ったり不満を感じる
ことはあったけど、出来るだけコーチ達の言うことを実践するように
意識していたもんだ。
その関係は「コーチと選手」という関係よりも「師匠と弟子」という
関係を意識していたんだよ。
コーチ達を信頼仕切っていたからね。
 
そんなスペイン時代のアカデミーのコーチの中に、当時
ステファンというコーチがいた。
スペイン人とスイス人のハーフで、スペイン語はもちろんの事
英語、ドイツ語、フランス語が堪能で、レッスンも大雑把な教え方の
コーチが多い中、きっちりと細かく説明してくれるし、理解してないと
分かるまで解説してくれる熱血コーチだった。
しかし・・・彼の雰囲気が怖かった。
目がギョロッとしていて背が高い。
あまりにこやかとは言えない上に、練習内容や注意点などの
課題が分かってないと、必ず止めて説明をし直すんだけど、
どうしてもその時の顔も喋り方も怖いから、なんとなく説教を
されている気分になってしまう。
彼の練習自体も他のコーチ以上にきつかったから、何となく
段々と鬼コーチっぽく見えてきた。
当時、同じアカデミーで一緒に練習していた日本人の選手達は
ステファンがその日の担当になると「うわ~」って嫌がっていたが
俺自身もちょっとビクビクしてしまうから、アカデミーに行って
ステファンの姿を見掛けると「どうか当たりませんように」って
思ったこともあった。
 
しかし彼が担当となると、「うわっ!」って思う気持ちと裏腹に
練習の集中力はとてつもなく高まった。
練習内容や注意点を聞き漏らすと、練習を止められるから
話もしっかり聞いていたし、他のコーチ達より練習内容がハードだから
集中し続けないと一気に崩れてしまう。
だから彼を避けようとする気持ちがある反面、彼が担当になって
欲しいという気持ちもあったんだよ。
矛盾しているけど、やっぱり選手として強くなりたいという思いが
当然あるからね。
だから彼はトップ選手たちからの人望も厚く、選手のツアーコーチ
としてもよく世界を駆け回っていた。
 
そんな厳しくて怖い感じだけど、頼り甲斐のあるステファンのレッスンを
受けていると、ついついスペインにいながらも彼に上下関係を意識して
しまうんだよね。
悪い意味ではなく、「テニスを教えてくれる俺の師匠」という
尊敬と感謝の気持ちを込めて、挨拶もきっちり行い、スペイン語や
英語の敬語はイマイチ分からなかったけど、出来るだけ丁寧な
言葉遣いを心掛けて接していた。
ところが、ある日レッスン終わった後に「Thank you」と彼に言うと
「なんでThank youなんだ?」と眉間にシワを寄せて詰め寄ってきた。
「いや、あの・・・レッスンをしてくれたので」と言うと
「テニスを教えるのが俺の仕事。トモはレッスンを受ける権利がある。
Thank youと言うな」と怒られた。
あんなデカイ人にあんな怖い顔でそんなこと言われると
「御免なさい」って思わず言いそうになったけど、何とか
それは飲み込んだ。
「御免なさい」もなんだか怒られそうだったからね。
 
でもその日を境に、ステファンの見方がちょっと変わった。
結局、「師匠と弟子」という関係は、双方にその気がないと
成り立たず、あくまでもここスペインでは「コーチと選手」の関係
であり、コーチ自体そういう関係を選手に求めているのだ。
だから俺たち選手はもっとコーチを振り回すくらいの存在に
ならないといけない。
一見怖そうなステファンを怖がるフリして、実は俺自身の
自立心を甘やかしていたのかもね。
だから、ステファン相手でも、レッスン中はもっと意見や時には
不満を言わないといけないし、彼らはそれをサポートしてくれる
用意があるんだよ。
 
そう言われた後、そういう気持ちで付き合うようになると、
ステファンって実にナイスガイであった。
でも結局最後まであの顔で迫られるとドキドキする気持ちも
消えなかったけどね。
怖かったけど優しくて、一生忘れられないくらい
素晴らしいコーチであった。
因みに・・・ステファンは俺より年下。
その事は今でも信じられない。

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