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てにすまん 高西ともブログ

俺をテニス選手にしてくれた先輩 [過去の思い出]

投稿日時:2013/02/19(火) 13:47

18歳の時上京して入社したのが、テニスコーチ派遣会社の
テニスユニバース。
まだ10代のうちに入社したから、色んな先輩方にお世話になった。
特に最初の頃はテニスも下手っぴだったから、お世話になる
というよりも、一から育ててもらったって感じだね。
 
そんな先輩方、色々個性的な人達が多かったんだけど
その中でも強烈な個性だったのがハチヤさん。
俺と10歳くらい年齢が離れていた彼はちょっとぽっちゃり型で
冬でも湯気を出すくらい暑がり。
ラーメンとか焼肉が大好きで、しょっちゅう連れてってくれたし
毎回おごってくれた。
後輩の面倒見が良いんだけど、挨拶や返事の仕方にも厳しく
よく注意されては怒られた。
独身で彼女がいなかったハチヤさんは、給料の全てを食事に
つぎ込んで「お金が無い」って言っていたが、それでも俺たち
後輩には飯をおごり続けてくれた。
それなのに、ある日いきなり中古のポルシェを購入した。
故障ばかりで全然走らないそのポルシェは、修理代ばかり
掛かったうえに、毎朝5時に起きてはエンジンの調子をチェック
しないといけない面倒な車。
そのせいで、ハチヤさんは更に精神的にも金銭的にも
追い込まれていたみたいだけど、それでも
「ゴメン高西君、今回は食べた分の500円しかおごってあげられない」
と言いながら、変わらず後輩たちを外食に連れてってくれた。
正直、「それならもうイイです」と言いたくなってしまう先輩だった。
 
そんなハチヤさんだったけど、練習は熱心だった。
熱心だったけど、彼の練習方法は打ちまくるだけだった。
2時間の練習なら、2時間ずっとストロークラリーをし続ける。
そしてそれを全て全力で打ちまくるのだ。
そのストロークの威力は凄まじかった。
フォアもバックも何のためらいも無く、しっかりボールを引っぱたく。
こっちはそれを返球するだけで精一杯だった。
 
暑がりだった彼は、朝練習しかしなかった。
朝涼しいうちに打ちまくる練習しかしなかった。
でも真冬も朝しかしなかった。
まだコートに霜が白く残っている状態でいきなり打ちまくる。
ストロークだけじゃなくサーブもボレーも、体からもうもうと湯気を
立てながら半袖になり、更にピチピチ気味の短パンでハチヤさんは
湯気を立てて打ち続けた。
そして、かすれた独特な掛け声でいちいち打つ時に叫ぶのだ。
よく近隣の住民から「朝からうるさい!」とクレームを受けた。
 
そんなやり方の練習しかしないから、後輩の俺たちしか彼の
練習には付き合えなかった。
朝練習しかしなかったのはそういうのもあったかもしれない。
ベテランコーチも混ざる午後の練習は、皆で一緒に
テーマ練習したりパターン練習したりするのだが、そういうことを
ハチヤさんはやりたがらなかった。
彼はただ目の前のボールを空いているコースに叩き込むこと
だけを考えてテニスしていたのだ。
相手との駆け引きややり取りなんかどうでもいい。
だから、会社でもちょっと浮いた存在になっていた。
でもハチヤさんは強かった。
社内のコーチの中でも戦績は上の方だった。
たまにサーブからのゲームをやったけど、全然ポイントが
取れなくて、圧倒的な実力差をいつも感じたもんだ。
 
上京当時、俺は一人前のテニスコーチになることを頑張ろうと
思っていた。
だけど、彼と一緒に練習しているうちに段々ハチヤさんが
カッコよく見えてきて、いつの間にか結局ラケットも同じラケットを
購入したし、テニスも完全に影響されて同じように打ちまくっていた。
そしていつの間にか俺は、テニス選手として頑張るようになっていた。
 
結局ハチヤさんは俺が20歳の時に退社した。
テニスも練習の仕方も仕事の仕方もお金の使い方も、
全て型破りだった彼は、その後どうなったのか知らない。
でもまだ上京したてで真っ白だった俺は完全に影響された。
あの頃「すごいショット!」って思った彼のパワーは実際
今見たらどんなショットだったのか大いに気になるところだが、
今思うと、あんなにひたすらずっとボールを全力で打ち続ける
人間をハチヤさん以来見たことが無い。
練習の仕方とかテニスの打ち方は参考にならなかったけど、
上京して最初に彼とずっと練習できたことは俺にとって
とても幸運だった気がする。
「何も考えず、打ちまくれば良いんだよ」
今でもハチヤさんにそう言われたことを思い出す。

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