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てにすまん 高西ともブログ

スペインでのホームステイ [過去の思い出]

投稿日時:2013/04/08(月) 12:54

初めてスペインに行ったのは24歳の時。
ホームステイ先はラファエラという老婦人が一人で住むアパート
だったんだけど、ラファエラは英語が苦手だった。
それどころか、こちらが英語で会話しようとすると
「ここはアメリカじゃないのよ!」って怒るのだ。
一緒にホームステイしていたイタリア人の選手に通訳してもらい
なんとか食事のことやシャワーのことなど、生活面での必要不可欠な
ことは教えてもらったけど、イタリア人選手は何かと不在が多かったから、
俺とラファエラでの生活という時間が殆どだった。
 
ラファエラはとにかくよく怒った。
英語しか話せないことにも怒ったし、家の中での服装にもうるさかった。
冷蔵庫のオレンジジュースを朝ごはん以外に飲んだことも
怒られたし、部屋が散らかっていることも、シャワーの使用時間が
長いってことも小うるさく言ってきた。
毎日毎日、イライラしながら俺に文句を言ってくる。
テニスの練習でヘトヘトに疲れているところで、ギャーギャー
言われ続けるとホントに頭に来る。
頭に来るから必死で覚えたてのスペイン語で言い返してやった。
 
でもラファエラの性格なのか、スペイン人の特徴なのか、
すぐに怒るんだけど、次の瞬間途端に機嫌が治ったりする。
言いたい事を大声で言い切ったら、何事もなかったようになるのだ。
最初は戸惑ったけど、それが分かると小言を言われることも大して
苦にならなくなってきた。
だから彼女のことを嫌いになることは一度もなかった。
 
嫌いになるどころか、ラファエラにはとても感謝していた。
それは彼女の料理がとても美味しくて、毎晩それが楽しみだったから。
ちょうどホームステイしていた時期は自分のテニスのプレーが上手く
行かず、オンコートでは精神的にも辛い日々を送っていた。
ハードな練習が終わって、帰りの送迎のワゴンから外の景色を眺めながら
ラファエラのアパートに帰る時にはいつも、日本に帰りたいってことと、
今夜のラファエラの晩御飯のことを考えていたのだ。
 
ラファエラの料理は毎回必ず、前菜、メイン、デザートと3回に
分かれて出てくる。
いわゆるコースってやつだ。
前菜と言っても、そこで大量のパスタやパエリヤが出てくる。
チーズやサラミがたっぷりのサラダの場合もあったね。
それだけでも日本だったら余裕で晩御飯が終わってしまうほどの
ボリュームなんだけど、それを食べ終わったあとに肉や魚の
メインディッシュとなるのだ。
デザートはラファエラの手作りケーキやプリンの場合もあれば
フルーツの時もあるし、ヨーグルトのみってこともある。
ワインと食後のコーヒーがあれば最高だったけど
お酒もコーヒーもそう言えばラファエラは口にしなかった。
それでも最高の晩ご飯を腹いっぱいラファエラは食べさせて
くれたのだ。
 
食事の席では常に「今日の練習はどうだったの?」
「今日のランチは何を食べたの?」ってラファエラはずっと俺に
質問をしてきた。
「今日はね、コーチにこう言われたよ」
「今日のランチは、うさぎを食べたんだよ」
スペイン語で会話が出来るようになってきても、相変わらず
ラファエラのイライラは続いたが、笑顔も多くなってきた。
 
そんなラファエラのアパートでのホームステイは、結局半年経った時に、
他の日本人選手とアパートで自炊しながら共同生活する話が
持ち上がって終わることに決まった。
その頃にはラファエラと色んな話をスペイン語で会話出来るように
なっていた。
アパートを出る話をラファエラに伝えた数日後、ラファエラから彼女が
毎週日曜の朝に行くカフェの話を聞かせてもらった。
泊まっている選手たちに朝ご飯とランチを用意しなくていい日曜日は
彼女が一番のんびりできる時間。
そんな日曜の朝は彼女のお気に入りのカフェへ、新聞と広告を大量に
持って行ってのんびりと過ごしているらしい。
「そこのクロワッサンはとても美味しいから、トモも行ったほうが良いわよ」
 
誘いなのかどうかは分からないけど、その次の日曜日の朝、俺も
教えられたカフェに行ってみた。
すると、ラファエラは「待ってました」って表情でニッコリ笑って
迎えてくれた。
でもそのまま彼女は俺が隣に座ってもずっと新聞を読んだまま。
なので俺も隣で小説を読んだり日記を書いたりしながら一緒に過ごした。
次の週の日曜日も同じように二人でカフェにバラバラで行き、一緒の
テーブルでそれぞれ自分の時間を過ごした。
その次の日曜日、俺はラファエラのアパートを出た。
彼女は朝、俺からアパートの鍵を受け取ってから一人でカフェに行った。
 
彼女との半年間の生活は数年間のように感じた。
その最初の半年はテニスに慣れるにも、スペインという国に慣れるにも
とても重くて濃い時間だったんだけど、そこでラファエラのアパートに
滞在できたことは本当に幸せだった。
単なる優しいおばあさんではなく、イライラしてすぐ怒るんだけど
最高に料理が上手くて、そして実はじっくり付き合うと根が優しいってことが
俺に生活の刺激と活力を与えてくれた。
ラファエラは今もまだ毎週日曜日はあのカフェでクロワッサンをつまみながら
新聞を読んでいるんだろうか。

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